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カブトガニ教養講座2

印刷用ページを表示する更新日:2011年3月1日更新 <外部リンク>

 カブトガニクイズ2

9. カブトガニに必要な干潟とはどのようなものでしょうか ?

干潟はドロドロとしたヘドロ状の底質ですが、特に生物が富む底質の泥を観察してみると、粒度は目の荒いものと細かいものの二種に分けることができます。目の細かいものは底質の上面に位置しており、荒いものはその下方に堆積しています。なぜこのような底質が干潟の生物やカブトガニに好まれるのでしょうか。
目の細かい泥は、生物の餌となる有機物を多く含んだ泥です。カブトガニは前にも述べたとおりゴカイやアサリなどを食べますがこれらの餌はなかなかカブトガニの腹に収まることはなく、もっとも得やすい泥の中の有機物を主に食べていたと考える方が自然です。
次に目の荒い泥について考えてみると、この泥は空気の流通がよいため、多くの酸素を含んでいます。めづまりしやすい干潟の泥を腐敗から守るとともに、泥へ潜る生物達に酸素を供給する働きをもっています。
これら2種類の泥がバランスよく配合されている底質は、よい干潟であるといえます。
笠岡湾は干拓によって狭められた水路的な湾であり、船も頻繁に往来しています。船舶によって引き起こされた波が砂を移動し、砂は干潟の上へと溜まり、比較的目の荒い干潟が形成されています。干潟の上に新たな砂が堆積すれば、下層の泥ほど酸欠状態となり、腐敗をまねきやすくなり、それまで生息していたカブトガニなどの固有の種は減少傾向になると考えられます。

10.カブトガニは産卵回遊をしますか ?

カブトガニは、夏季において海岸よりの砂州に産卵し、冬季は沖合に出て休眠にはいります。そのため小規模ではありますが、産卵のための回遊を行なっているといえばいえなくもありません。しかし、サケの産卵回遊と根本的に違う点はサケは頑強にも自分が生まれた川で産卵しようとしますが、カブトガニはそれほど同一の産卵場所にこだわりを持ち合わせず、ある程度融通性をもったものということが考えられています。厳密にいうと産卵回遊と呼べるものではありません。

11.カブトガ二は水槽内で産卵できるのでしょうか ?

時折水族館から、カブトガニが水槽の中で産卵したとの連絡が入ることや博物館の中の大水槽でも、砂の上に卵がちらばっているのを確認したことがあります。しかしこれらは産卵ではなく、雌のカブトガニが産卵期において熟成した雌の生殖口からこぼれ落ちた無性卵であり、孵化することはありません。稀に受精したものが含まれていることがありますが、この卵も同じく、熟成した雄の精液が漏れて偶然に卵にかかったものであるため、極めて少数の卵しか発生しません。
カブトガニは体内時計を持った動物であるため、特に産卵は潮位に大きく左右されます。したがって潮位のない水槽の中での産卵は現在のところ成功していません。水槽内を自然界と同様に潮位を与えることによって雄が産卵体勢をとることはわかっていますが、雌についての必要条件が解明されていません。産卵研究はカブトガニの増殖を計るためにも是非ともやらなければならない研究課題です。

12.つがいの雌が死んだ時、雄はどのような行動をとるのでしょうか ?

カブトガニのつがいについては一夫一婦制で、いったん抱合の体勢をとると長期間この姿勢を維持しつづけます。しかし、雄はすべてのケースにおいて雌が死亡する前に離れてしまいます。ではなぜ雄は雌の死を知るのでしょうか ?これははっきりいって現在のところ解明されていません。しかし次のような仮説が成り立ちます。
雌が死ぬと雌自身が雄の意に反する行動をとるようになり、さらには餌も食べなくなるため、雄も餌にはありつけなくなります。また、カブトガニが臭いに対して敏感であれば、壊死している場合はすぐに気がつくはずです。
逆に雄が死ぬ場合は、体力が尽きると雌につがうことができなくなるため、自然に離れるものと推察されます。

13.カブトガニは病気をするのでしょうか?

付着珪藻の発生した卵
(写真は付着珪藻の発生した卵)

まず卵や 1齢などの時によく見られるのが、カビと、付着性の珪藻があります。これらは、病気とはいえないかも知れませんが、発生すれば確実に死を招くことになります。付着珪藻は、最初は卵の表面に、緑色の毛糸屑が付いているように見え、最終的にはマリモの様になって卵が発生することなく死んでしまいます。珪藻の害から守るためには、光を遮ることと、徹底したろ過海水や人工海水を用いることで防ぐことができます。

幼生期では、鰓書に関する疾患と甲殻が透けてしまう(内部の組織が破壊されてしまうと、殻が薄いため透けてみえる状態)病気の 2つがあります。鰓書に関しては、黒く変色するか、もしくは鰓が紙袋を脹らませたようになり、呼吸困難に陥ち入って死亡します。また内部組織が破壊される疾患や鰓書の病気は、その原因の究明はなされておらず、これといった処置方法もありません。このような症状が見られた時には、極力多くの餌を与えて体力の補充を計り、早く脱皮をさせるように努めています。
成体に関しても、鰓書の疾患が最も多いようです。鰓書というのは、堅い穀に比べて非常に弱々しく無防備な状態であり、唯一の泣き所といった感があります。一度黒く変色し始めると、もう打つ手がなく、こちらがしてやれることは、新しい海水を供給するか、エアレーションを行なうことぐらいです。

14.カブトガニの寿命はどのくらいでしょうか ?

魚などはウロコや耳石によって年齢を知ることができますが、カブトガニの体には、これといった年齢を示すところがありません。尾剣の背部の正中線上にある棘が継続的に生えていることから、活動期には棘が生じ、休暇期には全ったく欠くと断定して、これを年齢の判定方法とする方法がありますが、確たるものではありません。
尾剣の正中線上にある棘
(写真は尾剣の正中線上にある棘)

またガザミの成長と比較してカブトガニの寿命を割り出す方法も考え出されましたが、あまりにも掛け離れた年数となり、これもカブトガニの寿命を決定付けるものではありませんでした。
したがって現在においてもカブトガニの寿命については不明のままです。当博物館では成体になるまで約15年、それから 10年間生きるとし、25年くらいと推測しています。

15.カブトガニはウンチやオシッコをしますか ?

カブトガニの糞は一見それらしい形をしておらず、人間のものとは随分違っています。形は 4~5cmのひも状で、薄いゼリー状の粘液質の膜に包まれています。食べた物によって色は異なり、イカを食べれば白く、エビを与えればきれいなピンク色となります。
カブトガニは、一見して生殖器があるように見えないので、オシッコはウンチといっしょに排泄されるかのように思われがちですが、決して糞と一緒に排泄しているわけでもなく、性器からでもありません。
カブトガニのオシッコは、第四歩脚の基部にある小さな孔から排泄されます。孔は基節線(きせつせん、人間の腎臓にあたるもの)に通じており、ここヘオシッコを集めて、管を通して孔から外へ排泄します。

16.日本のカブトガニはどこから来たのでしょうか ?

カブトガニの祖先は、古生代のローラシア大陸の中央部の海で生まれ、その後ヨーロッパ大陸に生息していたものはアジアの方へと移動し、今日のアジア大陸東南海域の三種のカブトガニ類になったと考えられています。

日本におけるカブトガニは、フィリピンや中国大陸東岸、台湾などに生息しているカブトガニと同一種(Tachypleus tridentatus)であることから日本のカブトガニは、日本がまだ大陸と陸続きであったころに移動し、北九州沿岸などに棲みついたものと推察されています。また瀬戸内海におけるカブトガニの生息は、最後の氷河時代であるビュルム氷期以降に海面が上昇して現在の瀬戸内海が形成された(完新世の初め-約8000年前)と考えられることから、カブトガニが移り棲んだのはこれ以後ということになります。

1986年佐賀県武雄市で発見されたカブトガニの足跡型と思われる生痕化石は漸新世(約3500万年前)のものと見られています。もし本当にカブトガニの足跡ならば、日本のカブトガニのルーツを探る重要な手掛りになるかもしれません。