学芸員の覚書(第5歩脚とへら状器)
学芸員の覚書(第5歩脚とへら状器)
マニアックなカブトガニの脚の話です。
このたび,顕微鏡で3齢幼生のカブトガニ(前体幅が約11mm)を観察していると,成体(おとな)のカブトガニとは少し違うところがあったので,ご紹介。
へら状器って?
カブトガニは特有の器官があるので,聞きなれないワードだと思います。
まず,へら状器(じょうき)とは
このように,第5歩脚の先のほうに広がる4枚のへら状の器官です。
広がることで,スキーのストックのように力強く底質(泥や砂)を蹴ることができます。
この脚のおかげで干潟でもスイスイと移動できるわけです。
ちなみに,こうして写真で見ないと気付きにくいのですが,この第5歩脚の先端部も他の歩脚と同様にハサミ状になっているのがわかります。
ただし,すごく小さなハサミなのでエサをつかむわけではなく,使い方は謎です。
3齢幼生の第5歩脚とへら状器
これはエサやり中のカブトガニですが,右側の一回り大きいカブトガニが3齢幼生のカブトガニです。
周りのカブトガニはまだ少し尾剣(びけん:しっぽ)が短いですが,3齢幼生になるとすっかりカブトガニらしい姿になります。
体が赤っぽいのは,まだ脱皮して日が浅い証拠です。
さて,そんな3齢幼生の第5歩脚とへら状器がこちら!
長い!
細い!
そして,特にハサミが長い!
↓別の個体でも撮影↓
第5歩脚のハサミにピントが合っているので見えにくいですが,やはりへら状器が細長いことがよくわかります。
そして,まだ小さいカブトガニなので殻が薄いためにハサミ部分は透けています!
「生きている化石」と呼ばれながらも,今年のトレンドでもある「透け感」をちゃっかり取り入れています。
カブトガニの世界でも若者は流行に敏感なのでしょう!
少し脱線しましたが,カブトガニはにぎりこぶし大くらいまでの大きさの時期(4~5年ほど)を干潟で暮らし,それより大きくなると徐々に沖に出て生活すると言われています。
この長いハサミやへら状器のおかげで,小さい頃を過ごす干潟で泥に埋まることなく生活できるのでしょう。
そして,大きくなると底質の粒径が大きくなるので,大きすぎるハサミやへら状器は小さくなっていくのでしょう。
普段あまり見ることのない,小さなカブトガニの長い脚の話でした。