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木山捷平文学賞受賞作品
木山捷平文学賞受賞作品
趣旨
この文学賞は、庶民的な視点から、飄逸でユーモアがあり、滋味あふれる独自な文学世界を創造し、日本文学史上に特異な地位を占める笠岡市出身の作家木山捷平の優れた業績を顕彰すると共に、文学の振興及び豊かな芸術文化の高揚を図ることを目的として、平成8年4月に笠岡市で制定し、平成16年度まで行われました。
選考委員
作家、三浦哲郎
文芸評論家、秋山駿
文芸評論家、川村湊
受賞作品一覧
第1回(平成8年度)
受賞者略歴
佐伯一麦(さえきかずみ)
1959年、宮城県生まれ。仙台一高卒業後、電気工などをしながら創作を始める。84年「木を接ぐ」で海燕新人文学賞。90年「ショート・サーキット」で野間文芸新人賞。91年「ア・ルース・ボーイ」(新潮社)で三島由紀夫賞を受賞。電気工としての生活、若き日の結婚生活などの自らの体験をもとに青春期の自画像を鮮烈に描く。
他に著書「雛の棲家」「一輪」「木の一族」などがある。05年「鉄塔家族」で大佛次郎賞受賞。07年に「ノルゲ」で野間文芸賞受賞。現在、大佛次郎賞、野間文芸賞選考委員。
受賞作品概要
「遠き山に日は落ちて」(集英社)
蔵王山麓の古びた家に移ってきた作者の分身である小説家斉木と新妻となった草木染作家・菜穂とのつつましやかで、清々しい暮らしぶりを、自然へのあたたかな視線をまじえながら描いた私小説である。電気工をしていた若き日、別れた妻子へ思いもまじえながら、黙々と新たな生活を作り出してゆく暮らしぶりは、温かく健康的だ。よき隣人や職人とのつきあいもさりげなく描かれ、普通の人々の暮らしが、ゆったりと伝わってくる。
第2回(平成9年度)
受賞者略歴
岡松和夫(おかまつかずお)
1931年福岡市生まれ。東京大学国文学科卒業。
59年「壁」で文学界新人賞を受賞。75年「志賀島」で第74回芥川賞受賞。「異郷の歌」で第5回新田次郎賞受賞。
受賞作品概要
「峠(とうげ)の棲家(すみか)」(新潮社)
朝鮮戦争勃発の翌年1951年の春、東京の大学から福岡に帰省した青柳安志は、70歳で肝臓癌の祖母八重に頼まれ、彼女を山奥の生まれ故郷、、日向村へ連れて行く。彼女の帰郷は、ダムに沈む墓地を山上に移したいためだった。村で再会した福岡の小学校同級生の泉は、ダム反対運動の急先鋒だが、実は血縁と分かる。八重は、眺望の開けた峠に小屋を見つけ、幼なじみの所有者に滞在を認めさせる。ある夜、近くのダム建設作業宿舎が炎上。放火犯人の泉は安志に告白し、潔く自首する。その後、安志は祖母の強い意志に従い、彼の父が死んだ霊場へ彼女をリヤカーで運ぶと、病から驚くべき回復力を見せる。戦後の混乱期を生きる青年の前に大いなる異界が出現する。
第3回(平成10年度)
受賞者略歴
柳美里(ゆうみり)
1968年、神奈川県生まれ。高校中退後、東京キッドブラザーズを経て、88年に劇団「青春五月党」を結成。93年、「魚の祭」で第37回岸田國士戯曲賞を最年少受賞。94年に初の小説「石に泳ぐ魚」を発表。96年に「フルハウス」で野間文芸新人賞と泉鏡花文学賞。97年に「家族シネマ」で芥川賞を受賞。エッセイ・評論集に「家族の標本」、「水辺のゆりかご」、「仮面の国」などがある。東京都在住。
受賞作品概要
「ゴールドラッシュ」(新潮社)
物語の舞台は横浜。成り金のパチンコ店経営者の父親とともに山の手の豪邸に住む14歳の少年は、貧困の犯罪にうずまく下町にこころひかれている。そして、ある日、父を殺す。別段、罪の意識にさいなまれることなく、少年は豪邸の一室に死体を隠したまま、父親の会社の業務を引き継ごうとするが・・・。神戸の児童殺傷事件に触発された柳美里氏が、少年の父殺しを通して少年の心の闇とその救いを探った現代小説。
第4回(平成11年度)
受賞者略歴
目取真俊(めどるましゅん)
1960年、沖縄県国頭郡今帰仁村に生まれる。
琉球大学法文学部卒業。83年、「魚群記」で第11回琉球新報短編小説賞、86年、「平和通りと名付けられた街を歩いて」で第12回新沖縄文学賞受賞。97年、「水滴」で第27回九州芸術祭文学賞に続き、第117回芥川賞を受賞。
著書に「水滴」(文藝春秋)などがある。
受賞作品概要
「魂(まぶい)込め(ぐみ)」(朝日新聞社)
芥川賞受賞後初の短編集。中年男の魂が抜け落ち、その魂を込めようとする老婆の懸命な姿を描く表題作の他、ブラジル帰りの老人、基地の女、闘鶏、若い政治犯、母が自殺した青年等が登場する5編を含む。沖縄人の魂のありかを戦後の生活の様々な局面でとらえ、全編を通じて深いモチーフが息づいている。
第5回(平成12年度)
受賞者略歴
佐藤洋二郎(さとうようじろう)
1949年福岡県生まれ中央大学卒業
1992年外国人労働者を文学に取り入れ、現代日本を見据えた「河口へ」(小学館文庫)で注目される
1995年「夏至祭」(講談社)で第17回野間文芸新人賞受賞
1999年「岬の蛍」(集英社)で第49回芸術選奨文部大臣新人賞受賞
その他の作品集に「前へ、進め」(講談社)「夢の扉」(集英社)「父の恋人」(ベネッセ・コーポレーション)「遠い夕焼け」「神名火」(第2回木山捷平文学賞候補作)「大落選」(以上河出書房新社)、エッセイ集に「息子の名前は濯」(三一書房)、最新刊に「猫の喪中」(第123回芥川賞候補作)「イギリス山」(以上集英社)「極楽家族」(講談社)などがある。人間の生きていく孤独や悲しみをテーマに作品を発表し続けている。
受賞作品概要
「イギリス山(やま)」(集英社)
最近の進境いちじるしい三編の中編集。中国山脈の麓で息子夫婦と折合の悪いヤモメ老人が彼岸の日に、かつての面影の老女に再会する「彼岸祭」。育ての親がスリだったと警察に告げられて驚く複雑な生い立ちの中年女性を描く「陽炎」。韓国人で幼なじみの親友の女性を妻とした男が故郷の元炭坑地を訪れるが、妻はすでに親友の死を知っていた、という「イギリス山」。いずれも地方の風土に根ざして、人生の諸相をよく見届けている。
第6回(平成13年度)
受賞者略歴
平出隆(ひらいでたかし)
1950年福岡県生まれ一橋大学社会学部卒業
現在、詩人・多摩美術大学教授
1984年詩集「胡桃の戦意のために」(思潮社)で芸術選奨文部大臣新人賞
1994年「左手日記例言」(白水社)で読売文学賞(詩歌部門)
その他、散文作品集に「葉書でドナルド・エヴァンズに」(作品社)、評論集に「破船のゆくえ」(思潮社)、「光の疑い」(小沢書店)、エッセイに「白球礼讃」(岩波書店)、歌集に「弔父百首」がある。
受賞作品概要
「猫の客」(河出書房新社)
夫が出版社をやめ妻が校閲者の中年夫婦が、昭和が終わりかける頃、東京都内の築六十年の屋敷の離れをかりて住んでいる。通ってくる隣家の猫チビと濃やかな交情を続けるが、或る夜チビは路上で死に、事故死と伝えられる。やがて世の中の大きな破綻とともに、屋敷は解体される。夫婦は引越すが、チビの「天にも地にもいないような」神秘的な面影は消え去らない。詩人の鋭敏な感性と観照力を静かなタッチに生かして描いた、作者初めての小説。
第7回(平成14年度)
受賞者略歴
小檜山博(こひやまはく)
北海道滝上町に生まれる。苫小牧工業高校卒業後、北海道新聞社に勤務のかたわら北海道に根づいた創作活動をつづけ、76年「出刃」で北方文芸賞、83年「光る女」で泉鏡花賞、北海道新聞文学賞を受賞。
また、札幌芸術賞、滝上町社会功労賞も受賞している。現在、神田日勝記念館長、北海道文学館副理事長。著書は他に、「地の音」「雪嵐」「クマソタケルの末裔」「夢の女」「スコール」「夢の通い路」「風少年」など多数。札幌市在住。
受賞作品概要
「光る(ひかる)大雪(だいせつ)」(講談社)
奥会津の貧農の子、十九歳の紀市が出稼ぎのつもりで北海道に渡ったのは大正の末だった。やがて家を引き払った母が嫁を連れて押し掛け、彼はやむなく山間で炭焼きを始める。冬は零下三十度を割り、食べるものもない。地面に立てた木に筵を下げただけの小屋も、原木がなくなるとさらに山奥に移らなければならない。故郷は遠に夢になっていた・・・。父母七十余年の苦難の日々を痛切な思いをこめて綴る深い感動に満ちた長編小説。
第8回(平成15年度)
受賞者略歴
堀江敏幸(ほりえとしゆき)
岐阜県多治見市に生まれる。現在明治大学助教授。1999年『おぱらばん』(青土社)で三島由紀夫賞、2001年『熊の敷石』(講談社)で芥川賞を受賞。
2003年、本書所収の「スタンス・ドット」で川端康成賞を受賞。
著書に『郊外へ』、『子午線を求めて』、『いつか王子駅で』、『回送電車』、『ゼラニウム』、訳書にミシェル・リオ『踏みはずし』、ジャック・レダ『パリの廃墟』など。
受賞作品概要
「雪沼とその周辺」(新潮社)
山あいの、さして大きくはない町、雪沼や尾名川、権現山などがある周辺の土地で、ボウリング場、フランス料理屋、レコード店、製函工場、書道教室などを営む人びと。
日々を坦々としかし真摯に向き合い、静かに人生を紡いでゆく姿を、あたたかくかつ清冽な筆致で鮮やかに描いた七つの短篇連作集。集中の一篇「スタンス・ドット」は廃業前夜のボウリング場で、最後の一投にのぞむ店主を描いて昨年度川端康成文学賞を受賞した秀作!
第9回(平成16年度)
受賞者略歴
松浦寿輝(まつうらひさき)
1954年東京生まれ。現在東京大学大学院総合文化研究科教授(表象文化論・フランス文学)。詩人・作家・映画評論家。2000年、「花腐し」で芥川賞。詩集に、高見順賞受賞作「冬の本」、小説に「もののたはむれ」「幽」「半島」など。評論に三島由紀夫賞受賞作「折口信夫論」や「エッフェル塔試論」「知の庭園-19世紀パリの空間装置」などがある。
受賞作品概要
「あやめ鰈ひかがみ」(講談社)
「今からそう遠い過去でもない年の暮れの東京で、一夜のうちに起こった三つの出来事が語られている」短編集。生と死、現実と虚構、光と陰。その境界に、揺らぎ、彷徨う男たちの魂の官能の耽溺、背徳の喜び、退廃の甘美を、濃密な文章でつづる。文芸評論家の川村二郎氏が「熟しすぎてなお形の整いを失わぬ果実の、光沢と匂い」があると書評した作品からは、この世のむなしさと、むなしいこの世を生きる男たちの強靱なつぶやきが聞こえてくる。