学芸員の覚書Vol.7(1齢幼生~秘密のおしり~編)
学芸員の覚書Vol.7(1齢幼生~秘密のおしり~編)
2022年3月28日,桜があちこちで花を咲かせる季節になりました。
笠岡市では咲き始めです。
カブトガニが活動するにはまだ少し早いので,カブトガニの1齢幼生(赤ちゃん)の秘密の話をしたいと思います。
タイトルが「秘密のおしり」ですが,今回の話のネタはカブトガニの「口」から始まりました。
カブトガニの赤ちゃんには口がない!?
「口がない生物なんているのか!?」
いるんです!
今は便利な世の中で,インターネットで調べればいろいろ出てきますね。
しかし,その調べたリストにはカブトガニはいないはずです。
そもそも,カブトガニの口は脚の付け根の中央部分。
トゲトゲの向こう側に口があります。
アップでどうぞ!(90度左に回転)
絶対に食べられたくない口ですね。
こんなのに襲われたらきっと泣く。
さて,小言は終わりにして,1齢幼生の口がこちら
見にくいですが,トゲトゲはまだ短く口も見えません。
もしかして,口ってないのかな?と,ふと思いました。
「じゃあどうやってエサを食べるの?」
と思うかもしれませんが,カブトガニの1齢幼生はエサを食べません。
ライフスタイルはこんな感じ。
つまり,1回脱皮して大きくならないとエサを食べないのです!
何も食べずに約9か月もの間,じっとしています。
「エサを食べないんじゃあ口がなくても不思議じゃないなっ!」
と思ったのですが,一応文献を探してみると,アメリカカブトガニの1齢幼生のこんな断面図が…。
Growing up takes about ten years and eighteen stages (2003.Carl N. Shuster, Jr., and Koichi Sekiguchi)参考
口,あるやん!
普通すぎることにガッカリです。
約2億年も姿がほとんど変わっていない,カブトガニ先輩ならもしかして!?と思ったのですが。
残念でしたが,脱皮殻で確認してみました。
カブトガニは脱皮の際,前胃などの消化器官も脱皮するので脱皮殻を観察すると分かるはずです。
1齢幼生の脱皮殻の上側の殻をはがしたものです。
よ~く見ると,前胃が見えます。
別の器官を見間違っているといけないので,もう1個体でも確認します。
まぁ~。
立派な消化管ですこと。
新たな発見かなと,少し期待したのですが
カブトガニの1齢幼生には口がある!
という当たり前のことがわかりました。
やっと本題
さて,本題のタイトルを覚えていますか?
「秘密のおしり」です。
断面図を見て,何かおかしなところはなかったでしょうか。
肛門がないっ!!
これは確かめてみねば!
おお!
たしかに肛門がない!
ちなみに,2齢幼生はこんな感じ。
ちゃんと肛門があります。
尾剣の付け根にふくらみがあり,わずかに縦にスリットが見えます。
成体のカブトガニの肛門と見比べるとわかりやすいかもしれません。
1齢幼生がエサを食べない理由はこれかもしれません。
食べても排泄できないのであれば食べる理由はありませんし,消化管の中には卵の頃に備えていた卵黄が入っているのだとか。
口はあるのに肛門がないという不思議なカブトガニの1齢幼生。
まだまだ,謎の多い生物です。