学芸員の覚書(マルオカブトガニのオス・メス)
学芸員の覚書(マルオカブトガニのオス・メス)
誰得な知識をご紹介する「学芸員の覚書」シリーズの6回目。
日本のみなさんが人生のうちで,一度出会うか出会わないかくらいの生き物「マルオカブトガニ」。
そのオスとメスの見分け方についてご紹介します。
さらに,日本のカブトガニの亜成体に見つかった新事実も!
(これは本当にマニアックです)
マルオカブトガニって?
そもそもマルオカブトガニとはどんな生き物なのか。
日本に生息しているの?
初めて発見した人の名前が「まるおくん」なの?
いろいろな疑問があると思います。
マルオカブトガニとは,世界に生息する4種のカブトガニのうち最小で,名前のとおり「尾の断面が丸い」カブトガニです。
タイやインドネシア,ベトナムなどの東南アジアを中心にインドのベンガル湾などに生息しており,日本には生息していません。
大きく(成体に)なっても全長30cmほどで,日本に生息するカブトガニと比べると半分ほどの大きさしかありません。
しかし,体に対する尾剣(びけん:しっぽ)の割り合いは長く,4種のカブトガニの仲間で最長です。
長々と書きましたが,ようは「しっぽが丸くて長い,体の小さいカブトガニの仲間」です。
指に絡みつくマルオカブトガニ。キュートである。
オスとメスの見分け方 ~カブトガニ編~
まず,日本にも生息しているカブトガニは「カブトガニ」の1種類だけ。
そんな,日本ではとってもメジャーなカブトガニのオス・メスの見分け方は,大きく分けて3つあります。
1.前体(頭)の前方の形が違う
2.縁棘(えんぎょく:後体(体の後ろ)のトゲ)の長さが違う
3.オスは第1,第2歩脚が把持器(はじき:英語ではクラスパー)になる
こんなにわかりやすい違いがあり,さらに大きさを比べると
メスは60cmで3kg
オスは50cmで1.5kg
と,もちろん個体差はありますが,体の大きさもずいぶん違う。
見分け方がわかれば,一目見ただけでオスかメスがわかります。
オスとメスの見分け方 ~マルオカブトガニ編~
さてさて,お待たせしました!
では,マルオカブトガニを見てみましょう!
冗談キツいぜっ!!
前体の前方のくぼみが,オスの方が少し深いように見えますね。
しかし,はっきりとした違いは把持器の写真でしか見分けがつきません!
マルオカブトガニの縁棘は個体差が激しく,6本そろっていない個体も少なくありません。
だからといって,6本そろっていたところで,オス・メスの判断材料にはなりません。
と,いうことは!
「腹側を見ないとオスかメスかよくわからない」ということ!
もう一度いいます。
冗談キツいぜっ!!
そんなマルオカブトガニですが,他に違いがないかじっくり観察することにしました。
すると...。
ありました!
わずかな違いですが,見つけました!
目をつぶって触ってみてもわかるくらいの違いでした。
そんな違いを見つけた時,ふと思いました。
「日本のカブトガニはどうなんだろう?」
比べた結果がこちら。
顕著です。
やはり,カブトガニでも同じ特徴が見られました。
カブトガニの仲間は,脱皮を繰り返して大きくなりますが,最後の脱皮をしてオスかメスになります。
つまり,それまではオスでもメスでもないのです。
(亜成体(あせいたい)といいます)
あれ?
じゃあ,亜成体のカブトガニの前体の横側は丸いのか,反るのか。
それがこちら!
何ともいえない,中間的な感じで丸みがありつつ,わずかに反っている感じです。
亜成体のカブトガニはまだ,オスでもメスでもないので,第1,第2歩脚はハサミ状でメスと同じ特徴。
縁棘は6本とも長いので,オスと同じ特徴があります。
さらに,前体の前方は,くぼんでおらず丸いのでメスと同じです。
しかし,今回の発見で,前体の横側はオスとメスのどちらでもなく,中間的な形態であることがわかりました。
ただし,まだ学術的な裏付けがあるわけではありません。
あくまで「覚書」として楽しんでいただけると幸いです。
みなさんもマルオカブトガニを目隠しして触る機会があれば,「前体の横側」を確認してみてください。
その違いがわかるはず!
当館へお越しの際は,いろいろな角度からカブトガニを楽しんでください!